レターNo.108「好意の貯金」(2022年7月1日)

 お元気にご活躍のことと、拝察申し上げます。
 今年の梅雨明けは早かったですね、水不足にならないか心配です。猛暑の日々が続いておりますので、呉々もご自愛ください。

 さて、「最近は部下に注意ができない、パワハラになるから・・」と、部下指導に自信をなくしている管理職が多いように思います。
 一方で、「あの人に欠点を指摘されて目が覚めた。ありがたい忠告だった」や、「厳しい叱責だったけど、上司の本当の思いが伝わり、以来尊敬するようになった」「いつも色々な事をはっきり注意してくれるから、上司を信頼しています」等と、失敗を指摘されたり、批判されたり、注意されたりすることで、逆に相手に尊敬の念を深めることもあるのです。

 誰も、ミスを犯したり、失敗したりしたくはありません。人にも迷惑をかけますから、絶対に避けたいと思っています。・・・しかし、それ以上に、犯してしまったその失敗を、人から指摘されたり注意されたり、非難されたりすることの方が100倍嫌なのです。その指摘・注意が正当であると分かっていてもです。何故?
 それは、人から叱責されたり、批判されたりすることは屈辱だからです。誰しもプライドや自尊心をもっています。自分の評価は出来る限り高く保ちたいのです。指摘されるとプライドが傷つくのです。その指摘された内容が正当であると分かっていても、注意した人や批判した人を快く思えないのです。それは性格が悪いのでも、変人でも、難しいタイプということでもなく、それが普通(当たり前)なのです。
 仕事上必要な、指摘(注意)や指導であっても、相手は非難と受け止め、不快感を持つということを知るべきです。だから、注意や指摘をする時は、時や場所を選んだり、言葉を選んだりする配慮が必要なのです。

 しかし、厳しい注意や批判をされても、その人に好意を感じられるのは、一体なぜでしょうか?それは、受け手側がその相手に対して絶対的な信頼をもっているからです。
 それを心理学では「イデオシンクラシー・クレジット(Idiosyncrasy Credit)」と言います。その人に対する個人的な特有の信用・信頼性のことで、一言で言えば「信用の貯金」。信用は、積み重ねていくことに大きな意味があり、積み重ねた信用を「貯金」に例えたものがこの「イデオシンクラシー・クレジット」の考え方です。
 長い付き合いの親友同士は、結構お互いに悪口や欠点を言い合ったりしながら会話を楽しめます。このような会話が楽しめるのは、信用・信頼という「貯金」があるからです。
 

 長い付き合いでなくても、相手からの指摘を素直に受け入れられる時がありますが、それは、その人の中に、自分の理想像を見出していたり、自分もその人のようになりたいという憧れや尊敬をもっている場合です。心理学ではこれを「同一視」と言います。「同一視」の原型は、子供が同性の親に憧れ、父親や母親のような大人になりたいと願望し、自分と親とが「同一体」に思えている状態を言います。このように絶対的信頼のおける人からの指摘や注意は、自分の理想像からの指摘ですから、嫌悪感等は感じません。むしろ理想へ向かっての一つのステップと前向きに受け止められるのです。
 
 私たちが人を注意したり、批判する場合、相手と自分自身の間に「イデオシンクラシー・クレジット」があるか、または、その人があなたを「同一視」している場合に限り、注意や批判、更には体罰までもが、前向きに受け止めらることになります。知っておきましょう。

 「米国人はケンカをしながら仲良くなっていく」と言います。映画などで、派手な殴り合いの後、泥まみれの身体で握手をする光景を見ると、なるほど、と納得します。ビジネスでは殴り合いはしませんが、自分の意見をはっきり言い、お互いにディスカッションを交わしながら人間関係→信頼関係を築いていくといったところです。諺の「雨降って、地固まる」でしょうか?!
 日本人はどうでしょうか?“雨降って地固まる”→“雨降ったら、そのままぬかるみになり、流れていってしまう”のでは?!
 つまり、人間関係がなくなってしまうか、対立関係になってしまう場合が多いのではないでしょうか? 日本人は純粋さを好みますので、好きならずっと好き、一旦嫌いになったらずっと嫌いというところはありませんか?つまり感情を変えないのです。とても古い言い方ですが、「女の意地」や「男の意地」等を、一つの美学としている人もいます。

 「イデオシンクラシー・クレジット」の形成は、日本に於いても米国においても、同じで友好関係を築くためには、相手に好意的かつ肯定的に接触することがポイントとなります。
 現在の職場においては、意識的に人間関係をつくる努力が必要です。なぜなら、人間関係ができてないと部下育成もできませんし、何より、前向きな仕事ができないからです。人間関係の初期段階においては、個人的信用を得るために、対立を避け、友好第一を旨としましょう。

 私の尊敬する、アルフレッド・アドラー(Alfred Adler)は「仕事における失敗の90%は、知識や経験がたりないのではなく、そこに人間関係が築けないことが原因である」と言っています。

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植田亜津子

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