レターNo.94「中間管理職の嘆き」(2021年6月1日)

 紫陽花の鮮やかさが梅雨に映える季節を迎え、皆様におかれましては一層ご活躍のこととお喜び申し上げます。

 先週、中間管理職の嘆きを聴く事がありました。
 彼曰く・・・仕事で部下の未熟さを感じ、これでは能率も悪いし、周囲をイラつかせると思い、改善点を指摘し、どうしたらよいかのアドバイスをしたそうです。その部下は「分かりました。ありがとうございます」と、口では言ったものの、その後、表情をブスッ!とさせながら席をたちました。・・・どういうことなんだと思っていると、同僚に「いつも上から目線でものを言うからムカつく」と話していたということです。
 「部下のためを思ってのアドバイス、実際それで助かっているはずなのに、何で逆恨みをするのか訳が分からない!」彼はさかんに残念がっていました。

 管理者の話し方にも気を付ける点があったかもしれませんが、最近目立つ若者のこのような反応について、今回は分析してみましょう。

 部下は何故、“上司のアドバイス”を指導という視点で捉えられず、“優位にものを言う”と感じてしまうのでしょう。
 経験も知識も豊かな上司や先輩が、部下や後輩の出来ていない点をフォローやアドバイスすることは大切なOJTです。しかし、部下は「上から目線でものを言う」と、相手の優位性に過剰に反応するのです。
 それは「見下され不安」を抱いているからです。「見下され不安」とは、“軽く見られているのではないか”“バカにされているのではないか”という不安です。
 「見下され不安」を持っていると、本来は感謝すべきアドバイスであっても、有り難いとは思わず、優位を誇示している言動と受け取ってしまうのです。それが、例え、親切な援助であっても、見下す言動と受け取るのです。

 近頃は、この「身下され不安」を抱える人が多いために、部下や後輩指導に熱心な上司や先輩程、部下や後輩との関わり方の難しさに苦しんでいます。
 
 なぜ、「見下され不安」を抱える人が増えているのでしょうか?!
 現在のように、少子社会に於いて、“ほめて育てる”風潮は、小学校時代から“生徒はお客様”扱い。教師から、厳しく導かれないため、レジリエンス(復元力=一時的に傷ついたり、落ち込んだりしてもすぐに立ち直る力)が鍛えられないのです。日本に“ほめて育てる”という風潮が広まってから、若者の自己肯定感は低下の一途をたどっています。
 
 インストラクターである私達が知っておかなくてはならないことは、“ほめられる”ことによってつくられた自信は、脆く傷つきやすく、しかも虚勢につながりやすいことです。 例えば、失敗を恐れるあまり、何事にも本気でのめり込むことができなかったり、“脆く傷つきやすい自信”を守るために、自己防衛的な姿勢をとるのです。つまり、ほめられる事によって、築き上げられた“誇大自己の幻想”が崩れない様に、チャレンジを避け、必死に虚勢をはってしまうのです。
 こういうタイプは、研修の中でも見かけます。チームワークやロールプレイング実習の場等でも、学び方が表面的で一生懸命さがありません。実践や経験から学ぶことが下手です。
 彼らは、指導者や上司・先輩の現実的な指導やアドバイスが怖いのです。だから反発する(相手を否定する)のです。

 親から厳しく鍛えられた子供は、欲求不満耐性が身に付いているため、困難な事態に直面しても、諦めずに、頑張り続けることができます。欲しいものは何でも買ってくれる、要求は何でも満たしてくれる、この様に甘やかされて育つと、欲求不満状態に追い込まれた時、それを耐え抜けず挫折するのです。
 “甘やかす”ことを英語では「Spoil(スポイル)」と言います。意味は「損なうこと、台なしにすること」。つまり、「親の過保護が子供をスポイルする」 ということです。
 “褒める”ことを、Praise(プレイス)と言います。「賞賛、称賛、賛美、称える」という意味です。Praiseの「P」を取り除くと「Raise」です。 意味は「育てる、養育する、(高く)持ち上げる、引き上げる、昇進させる、出世させる、身を起こす、等」です。

 部下指導に自信喪失している管理職の皆様、部下指導は管理職の大切な仕事ですから、諦めずに、下記のことを是非実践してみましょう。
 管理職は、部下をもっと「承認(認める)」しましょう。人間は誰しも、人から認められると嬉しいものです。「承認」の語源は「見留める」つまり「目に留める」です。
 「承認」は3段階でします。「承認」の順番は「存在→行動→成果」の順が大切なのですが、余裕のない職場では、目に見える「成果→行動→存在」の順で認める傾向があります。
 「成果」を出さないと、そのプロセスで取った「行動」を認められない、その「行動」をとった人の「存在価値」も認められない、といった残念な状態が起こり、上司と部下の関係は当然ギスギスしてきます。「成果」を出していない時にこそ、部下そのものの「存在価値」や、信頼していることを言葉にして伝えることが必要です。それが、「行動」を改善しようという意欲につながります。「行動」が変わると「成果」が変わります。

<承認のレッスン>
①「存在」承認・・・存在を認める。人間の基本的欲求で、これがあると安心する
          挨拶をする、名前を呼ぶ、目を見て話す、返事をする等
          ☆○○さん、おはようございます
          ☆○○さんは我がチームの大切な戦力です  
②「行為」承認・・・具体的な行動を認め、言葉にして伝える
          ☆○○さんの電話の出方は、明るく元気で感じがいいですね
          ☆○○さんの「◎◎の仕事」は正確で、随分スピードが付きましたね

③「成果」承認・・・具体的な成果に言及して祝福、感謝をする
          ☆○○さん、試験に一回で合格したね。おめでとうございます!
          ☆○○さん、◎◎の獲得おめでとうございます。素晴らしい!
           獲得成功の秘訣は何だったのだろう、聞きたいな!

 「承認」は褒めることではなく、相手の存在、行為、成果(成長)を言葉にして伝えることです。人間は答えが分かっていても自信がないと前へ進めないことが多いため、他者に認められることで安心して、行動に繋げ易くなります。「承認のスキル」はコーチング技法の一つで「勇気づけ」「力づけ」のスキルとも言います。心理学では「強化法」と言います。
 最近の「見下され不安」の強い部下は、他人が自分をどう見ているかにとても敏感です。まず、彼らの心の不安を取り除くためにも、日頃から「承認」の言葉を沢山使ってみましょう。安心感が信頼感に繋がると、上司や先輩からの注意事項も、素直に受け取ることができるようになります。部下を変えようとせず、私達のコミュニケーションのアップデートですね。私達の成長と部下の成長が、創造的な職場づくりに繋がっていきます。

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植田亜津子

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