季節の移り変わりは速く、気が付けば並木道は葉桜、かすかに漂う桜餅の甘い香りに癒されながら、出勤する朝です。
皆様におかれましては、お元気にご活躍のことと拝察申し上げます。
3月21日、野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝戦、米国対日本が、マイアミのローンデポ・パークで行われました。「USA」コールが湧き上がる中、侍JAPANは、米国史上最強のスーパースター集団に『3-2』で競り勝ち、3度目の優勝に輝きました。日本中が熱くなりました。
世界のメディアは、侍JAPANの選手一人ひとりの力強いナイスプレーの数々だけでなく、他チームをリスペクトする言動や礼節も絶賛しました。
その中でも、大谷選手からは、観客も選手達も、誰もが目を離しませんでした。テレビ画面から映し出される、各国の選手達とコミュニケーションをとる様子や、審判と笑顔で話し合う様子、プレー中の真剣で熱い態度、ナイン達とじゃれ合う姿等は、全て彼の人間性を物語っていました。
大谷選手について、福岡ソフトバンクホークスの王貞治会長の言葉が印象的でした。
「大谷は、メジャーでの歴史的な活躍を称えられていますが、日本からやって来た選手ということで(評価や立場を確立する上で)、彼には大変なこともあったと思います。
しかし、今彼をファンや選手達、何より全米が認めてくれている。そのことが一番大きい」・・・その言葉の意味を、ソフトバンクの球団関係者はこのように説明しました。
「彼の実力を他の選手達が認め、今誰からも、真剣勝負を求められる存在です。それは、選手として優れているからだけでなく、人としての振る舞いがしっかりしているからこそです。彼の言動を見れば分かりますが、敵・味方に関係なく、彼の足を引っ張る人間が少ない。そういう魔力のようなものが大谷にはあります。」それが、王会長の言う『全米が大谷を認めた』という言葉の真意だと思います。
昨季、15勝34本塁打という記録を残した大谷選手は、渡米6年目にして、メジャーリーグの歴史上、屈指の天才として認知されました。
なぜ、大谷選手は、これほどの存在に成れたのでしょう。193cmの堂々とした体躯にしなやかな手足、走攻守全てに卓越した野球センスの上に、もう一つ、他の選手と一線を画し、大谷を大谷たらしめている重要な素質があります。それは、自らの未来を切り開く、彼の「言葉の力」です。
彼がWBC参加のために、プライベートジェットで日本に戻って来た時も、世界一になった時も、記者会見の席で、「WBCに出るのは、僕の子供の頃からの夢でした」と言っています。
’18年に渡米する際、カメラの前で、にこやかに「一番野球が上手い選手になりたいと思って小さい頃から頑張ってきた」と語った大谷選手は、その後、メジャー史上初となる数々の偉業を達成し、ア・リーグ新人王を受賞。’21年はオールスター史上初の投手と野手の両方で選出される等、自分の目標を着実に実現していきました。
大谷選手は花巻東高校時代から、人生の節々で自らの目標を公言し、それを確実に達成しています。その強靭な『意志の力』には、驚かされると同時に、人間の行動に『言葉が及ぼす力』を実感させられました。
大谷選手は“自分の言葉(目標)”を、どのようにして実現してこれたのか、それが浮き彫りになるのが、何度となく発言する、“伸び幅”です。
「僕の才能が何かと考えた時、それは“伸び幅”なのかと思いました」「その時、上手いく、いかないは、それほど大事なことではない。この先、どれだけ上手くなるか、未だに僕はピークではない」。
自分は未だ伸び続けると、常に高い目標(ありたい自分の追求)を掲げ、それを自身の“伸び幅”と課し、一つずつ確実に達成しながら進化を遂げていっているのでしょう。
スティーブ・ジョブズが、スタンフォード大学の卒業式で、卒業生に向けてスピーチをした際の「stay hungry stay foolish」の言葉を思い出します。
「成績を残すかどうかは、他人の関心事であって、自分の目標ではない。自分が選んだ道だけが、唯一の“正解”なんです」「片方をやっていた方がいいのかもしれない。でもやっぱり、二つをやっていた方がいいのかもしれない。そこには正解はなく、僕としては“やったことが正解”というだけなんです」・・・・
「一流のピッチャーに成るんだとか、一流のバッターに成るんだとか、思っていたわけじゃない。いいバッティングをしたい。いいピッチングをしたい。いつもそれを望んできました」「ホームランを狙うということはなく、良い角度でボールに当てるというのが一番」。
“今、ここ、自分”に集中し、心に揺らぎがない状態を作り出す。これを、心理学では「フロー」と呼びますが、今、ここでチームが勝つために、自分の役割は何かを考えるのでしょう。
WBC決勝戦前、選手が集まったロッカールームで、栗山監督から「翔平、お願いします!」と言われ、「僕らは、今日メジャーリーガーを超えるために、トップになるためにここへ来た。野球をやっていれば誰しも聞いたことのある選手がいる。憧れていては彼らを超えられない。今日1日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけを考えよう。さあ、行こう!」と選手達を鼓舞しました。しびれます。
優勝が決まった試合直後、アメリカメディア「FOX Sports」の会見で、元メジャーリーガーで米国野球殿堂入りをしているデービッド・オルティス氏が大谷選手に“変化球”質問を投げました。
「真剣な質問をしたい」と切り出し、「どの惑星から来られたのですか?」、これには大谷選手も思わず笑ってしまったようですが、「日本の田舎で、あまりチームもないようなところで野球をやっていました。日本の人たちも、頑張ればこういうところでできるんだって・・・本当に良かったんじゃないのかな」。
更に、興奮冷めやらぬ試合後の会見では、「最高の形になって良かった」と喜びを語った後、インタビュアーから「日本の野球がますます注目されていくことになると思いますが、この先に向けてどんな思いがありますか?」の問いに、「日本だけじゃなくて、韓国もそうですし台湾も中国も、その他の国も、もっともっと野球を大好きになってもらえるように、その一歩として優勝できたことがよかったなと思いますし、そうなってくれることを願っています」と締めくくりました。深い野球愛と、対戦したアジアを始め世界各国の選手への思いが込められています。
日本、いえ、世界中の誰が、このような言葉を発せられるでしょう!?彼は今、28歳!大谷選手は、野球を介して世界を仲良くしました。「世界に影響を与えた人」、いえ「世界に影響を与えられる人」に成長しました。
最後に、忘れてはならないのは、大谷選手を育てた師匠、栗山監督です。彼の「選手を信じる力」が、侍JAPANの一人ひとりをエンパワーメントし、全勝で世界一を勝ち取りました。
管理者は、栗山監督から、Z世代の育成のしかたを学びたいですね。しかし、きっとそれは知識やスキルではなく、彼の『人間力』だと思います。
大谷選手の言葉(マインド)の数々から、栗山監督をかすかに感じるのは私だけでしょうか?! 栗山監督は、世界一の名将です。
あぁ、もう一度、人生をやり直したくなりました!
選手達は、決勝が終わった直後から、既に未来に向かって走り出しています。
私達も、さあ、行こう!
LOVE
植田亜津子