レターNo.92「キャリア形成は“偶然のできごと”から」(2021年4月1日)

 4月は、新社会人だけでなく、旧人類も異動等で何かと変化があり、働く意識も原点に返り、気持ちがニュートラルになる月のように感じます。
 新人研修をご担当の皆様におかれましては、お忙しい一ヶ月の始まりです。健康管理をしっかりして、好感度高い新人を育成なさってください。

 キャリアカウンセリング理論の第一人者である、米スタンフォード大学のクランボルツ氏は、キャリアは、偶然の出来事を効果的に活用することによって形づくられているという論を提唱しています。これをハプンスタンス(偶然の出来事)・アプローチと言います。
 クランボルツ氏は、この論において、私達の人生やキャリアは、想定外の出来事や偶然の出来事に影響を受けて形作られている。そのような出来事に対して積極的な行動をとることが、キャリアや人生を前進させるチャンスをつくることに繋がると述べています。とても納得・共感できる理論です。
 確かに私達の人生は、多くの偶然の出来事で左右されています。例えば、会社に入ってからも、上司を選ぶことはできませんし、任される仕事が自分の希望通りになるわけでもありません。偶然の出会いや与えられた環境や仕事に対して、積極的に動いたり、前向きに取り組んだりした経験こそが、重要なキャリア形成に繋がっているのです(現在の自分)。

 経済学者でキャリア形成理論の第一人者である、金井壽宏氏は、キャリア形成とは、キャリアを全て意識的・計画的に作り上げていくというよりは、偶然の出来事にある程度、身を任せて活かしつつ(彼はこれを「キャリア・ドリフト」と名づけています)、節目節目で自分の方向性を決めていく「キャリア・デザイン」であるべきだと述べています。本当にその通りだと思います。
 
 自分なりの計画や目標、やりたいことを持つことはよいことですが、目標に向かってまっしぐらであると、偶然に起こった出来事(チャンス)に気が付かなかったり、新しい出来事を拒んだりして、大切な選択肢が狭まってしまうリスクがあります。
 自分のやっている仕事の意味や価値は、その時は分からなくても、振り返ってみて初めて分かるということが結構多いものです。何も仕事を経験しない前から、「自分の希望とは違うから」等と言い、安易に転職してしまう人や、職場の仲間や仕事を軽視して、真摯に仕事に取り組まなかったりする人は、学ぶ(経験する)チャンスを確実に失っています。絶好のキャリア形成の機会であるのに。残念に思う人が最近少なくありません。

 将来の展望に何があっても、揺るがないだけの確固たる信念をもっている人は別ですが、10年先の目標に対し、逆算で、時系列的に行動を決めるような生き方や仕事のやり方は、現実的ではないと思います。むしろ人生はゴルフコース、最初からホール1点にねらいを定めるより、およそこっちの方向という程度の感覚でクラブを振った方がよいのではないでしょうか? 自分の適性や価値感が分からない内は、「これがやりたいかも・・という仮説」というキャリア目標でもよいのではと私は思います。
 特にVUCA時代は、複数の得意をもつことが強みであると考えます。そのためには、何でも目の前の仕事に懸命に取り組む(経験する)ことです。

 尊敬する稲盛和夫氏(京セラ創業者)は、人間が生きている意味、人生の目的は、「心を高めること、魂を磨くこと」にあり、そのためには「日々懸命に働くことが何よりも大事」「働くことは、単に生きる糧を得るという目的だけではなく、欲望に打ち勝ち、心を磨き、人間性を作っていくということに効果がある」と述べています(「生き方」より)。

 「目的」と「目標」は混同されやすいのですが、「目的」は人生を通じた「夢」「使命」のこと、その「目的」を達成する手段が「目標」です。
 「目的」と「目標」は似て異なるものであり、「目的」のない「目標」は「力」にはなりません。
 ならば、「人生の目的を明確にする」「その目的達成に向け、リフレクションを繰り返し、足りないものを学習(仕事を経験)していく」この2点を外さなければ、どのような学習の仕方でも、確実に自己成長(キャリア形成)していくと考えます。
 何だかんだ言っても仕事は、人生の中で大きな位置を占めています。どうせ働くのなら、楽しく、充実したものにしたほうがよいです。その方が人生も楽しいです。
 遅咲きの桜を見ながら想うことです。

LOVE
植田亜津子

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