レター No.39「江戸の“寺子屋”」(2017年6月1日)

 とても難しい研修をこの度依頼されました。年齢30歳前後のモチベーションがダウンしている人に対するエンカレッジ研修です。全員個性派揃いで、無表情、無反応、しかし、触れ合えば人柄のよい真面目で魅力的な人達でした。3日間の研修終了後は、皆さん明るく、元気になりましたが、私はヘロヘロ。
 そんな帰りの駅の売店で「江戸しぐさ」という本を買いました。江戸の粋なくらしの智恵や、一流の商人を目指しての心構えや振る舞いが満載、最近の人間関係が希薄な職場や、ニュースで流れる悪質な犯罪、いじめ、自殺など・・・・心が痛んでいる時、新幹線の中で、この本を読みながら、多くの日本人がタイムスリップして、江戸の「寺子屋」で学び直したほうがよいと思いました。参考になった一部をご紹介します。是非、皆様のご意見をお聞かせください。

☆知識の多さより、まず思いやり
 江戸の子供(稚児)は家庭でも町内でも、次の江戸を背負う者として大事にされ、“思いやり”を子供達の養育、躾の基本にしていたそうです。「江戸児戒律大典」の中には二百五十戒、五百律という子供の躾が書かれているそうです。(凄いですね。読んでみたいです)
 江戸の子供(稚児)たちの養育は、主として寺子屋で行われました。「寺の子」という名称が示すように、仏教の影響を強く受けていたようです。
 江戸の町人は殆どが商人であったため、親には絶対的に子供を教育する時間がありません。親たちは共同でお金を出し合い、寺子屋の師匠に子供達を預けました。中には商売が不景気な親もあったそうですが、師匠が面倒をみたそうです。親たちも自分たちが出した入門費用をその子につぎ込んだ等とは決して言わなかったといいます。子供のない人も、「どの子供も江戸の町の為になって欲しい」と、幾ばくかのお金を出したそうです。
 勉学環境にも見識があり、寺小屋の周囲はぐるりと生け垣を廻らし、青(緑)に包まれた中で勉強すると目も疲れず、頭もよくなると、学ぶ環境づくりもできていたそうです。

☆師匠は親の代理人、人格陶冶に尽力
 寺子屋はどんな身分の師弟でも入れるオープンシステムで、「将来性のある者にはその長所を生かし、出来そこないはその短所を矯正し、海のもの山のものとも分からない人間からは、そのよい芽を引き出してやるべし」を信条としていたそうです。
寺子屋の師匠も、現在の学校の教師も、雇われていることには違いはありませんが、しかし、寺子屋の師匠と現在の教師は行動(しぐさ)が違います。寺子屋の師匠は親の代理として、始めにこのように挨拶したそうです。「あなた方のお父さん、お母さんは皆立派な方である。しかも商いが繁盛して結構でござる。そのためにご多用で、貴公らに読み書き、算盤(そろばん)をお教えになれない。よってもって拙者がその役を仰せつかった。だから貴公らは親御さんに接するつもりでわしにも接しよ」。(親、師匠ともに顔の立つ挨拶。教育に対する取り組み姿勢が真に素晴らしい!)。
 また師匠は40歳以上が原則で、男女共いたそうです。助手には子供達の中で、最優秀者を選んだそうです。人の子を導くのに年配者だけに偏っても、経験の浅い若いリーダーだけに偏ってもいけない、年齢のバランスも考えられていたのです。

☆「見る・聞く・話す」に重点をおく実学が中心
 学ぶ内容は実学が中心で、まず最小限の「読む、書く、算盤」をマスターした後は、「見る・聞く・話す」に重点をおいたそうです。各地の寺子屋が「読む・書く・算盤」だけに力点をおいたのと大きな違いがあったそうです。

☆年齢を問わず世辞が言えて一人前
 寺子屋では、年齢的に段階を追って課題を与える等、カリキュラムもよく工夫され、「三つ心、九つ言葉、文(ふみ)十二、理(ことわり)十五、で末決まる」の諺どおり、言葉遣いには殊の外、やかましく、立派な世辞が口から楽に出るように何と、ロールプレイング指導を重視したそうです。
 江戸では「こんにちは」「おはようございます」といった挨拶の後、何か一言しゃべるのが当然とされ、「さようでございます」「お暑うございます」などの大人言葉は、何と九歳までの必須だったそうですよ。・・・(「まじっすか!」「はいマジでございます」)。
 また、十二歳迄には親の代筆が出来ることが課題だったようで、例えたどたどしくても書く事が大切で、周りは上達を励ましたそうです。・・・(「ヤバッ!」「ハイ、ヤバイでございますよ」。)最新の自然科学を教えるのは十五歳が目処だったそうです。

 子供達を仕込むのは教育ではなく、養い育む「養育」か、鍛え育む「鍛育」でなければならなかった。そのころの江戸の教育は世界にも例がない程、進んでいたようです。ともあれ、江戸に於ける寺子屋の発達は、質・量ともに全国でも群を抜いていたそうです。こうした寺子屋の存在は、日本人の識字率を高めると共に、様々な柔軟な考え方を生み、知識水準の拡大に繋がりました。明治になって欧米人が驚嘆する程、欧米化、産業化を進める原動力になったそうです。

・・・江戸の「寺子屋」での教育は、将来の江戸のために、子供を一人前の人として教育するという目標が明確でした。その目的を師匠と子供(稚児)が共有し、「養育」「鍛育」ができていたのですね。本当に素晴らしい!
 タイムスリップして稚児になり、江戸の寺子屋で学び直したくなりました。何より、江戸で、お互い相手を思いやる「粋」な“江戸しぐさ”を体感したい、また学びたいです。
 反省、考えさせられながら、東京駅に着きました。

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植田亜津子

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