レター No.40「便利さの裏で失う大きなもの」(2017年7月1日)

 最近の通信・連絡手段はほとんどメールで行われています。会議もパワーポイントが使われるのは今や常識。せっかく人が集まっているのに、見ているのはプレゼンしている人ではなく、投影されたパソコンの画面。何の為に一カ所に人が集まっているの分かりません。
 研修もしかり、パワーポイントを使っての研修展開は、今や普通。受講生もスクリーンを見て、講師も受講生も目を合わせない。講師は受講者の手元にある資料をプロジェクターを使って読み合わせしている(一人でも読めるのに!)。これが研修であるのなら、講師など必要はなく、パソコン操作ができる人なら誰でもよいということです。研修は何のために実施しているのでしょう?!一番大切なことは、受講生のモチベーションアップです。決してパワーポイントを否定しているわけではありません。情報伝達の場合には効果的でしょう。

 こうした現状は医療の現場でもみられます。今は検査結果がすぐデータ化され、医師はパソコン画面に表示されるデータを元に患者を診察します。医師の目に映っているのは患者の姿ではなく、パソコンの画面。
 先日、当社の会長が大学病院に診察に行ったのですが、「医者に診察された気がしない」と帰って来ました。翌日、個人医院で再診してもらい安心したようです。

家庭でも、テレビがついていないと間が持たないという人は少なくありません。一緒に食卓を囲んでいても目はテレビの画面を見ている。これでは家庭の団欒とは言えません。

 若者に人気のIT業界はカッコイイし、職場も綺麗、給料もそこそこ良いです。私も研修で関わっていたことがありますが、一方で、この業界は離職率が高いことでも有名です。中でもSE(システムエンジニア)の離職率はとても高いです。離職率が高い理由が2つあると考えます。一つは身体を動かさないこと。もう一つは、(実はこれがとても大きな問題なのですが)「相手が人間ではない」ということです。一日中一人でコンピューターモニターと向かい合いコンピューター言語で仕事をし、社内のコミュニケーションは殆どがメール、こうした環境ではワーキングメモリーである仕事脳は活発に働きますが、共感脳への刺激は全く無くなります。仕事脳はストレスと直結していますからストレスが溜まりやすく、太陽の光を浴びる機会のある営業担当者と比べると、どうしても運動不足になり、セロトニン神経が弱ってしまいます。IT業界にうつ病の人が多いのも分かります。
 
 最近、若者の研修をする時、「恋人がいる人は、メールでのやりとりは一日一回と決め、あとは直接電話で会話をすること。相手が大切なら直接的な会話を多く交わしてください(お互いを理解しあう)」と言っています。
 メールが好まれる理由は一方通行で楽だからです。一方通行だから傷つかないし、自己中でいられるからです。

 そのような時、面白いニュースを聞きました。それはシリコンバレーで会議にパソコンを持ち込むことを禁止する会社が増えてきているというものでした。ある会社が試験的に実施したところ、会議の効率が格段に上がったことがきっかけであったいいます。
 人が意欲を持って生きていくためには、人との直接的コミュニケーションは欠くことの出来ない大切なものなのです。
 
 そうした社会のIT化に対する反動か、最近人気が上がってきている職業があります。それが「介護」の仕事です。この「介護」の仕事だけは、人と人との直接的関わり合いがなくては絶対にできない仕事です。介護をしている人に話を聞くと、「自分の仕事が人のためになる」という実感が意欲に繋がっていることが伝わってきます。人間には「人から承認されたい」という基本的な欲求(承認欲求)があります。私達は無意識のうちに「人との直接的な関わり」を通じて自分が承認されることを求めています。

 人間は本来一人では生きていけない社会的動物です。だからこそ、脳を発達させ、言語を操る能力を身に付け、相手の行動や表情から相手の心の中にある思いを読み取る能力を培ってきたのです。それなのに、今、他人とのコミュニケーションができない、またコミュニケーションの必要性を感じない、コミュニケーションを取ろうと思っても上手くできない、これは人としてかなり危機的状態です。
 私達は今そのことに気付き、自覚して努力すれば、弱った能力(チカラ)を回復させ強くすることができるはずです。

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植田亜津子

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