レター No.56「声を磨く」(2018年9月1日)

 声と話し方から、その人の魅力が溢れ出ます。一流のリーダーたちは、例外なく人の心を掴む声と話し方をもっています。

 世界のビジネスの中心地、ニューヨークでは、スピーチクリニックに通う人が大勢いるということをよく聞きます。特にエリートクラスや、或いは重役を目指すビジネスマンの多くがボイストレーニングをしているそうです。理由は、声と話し方の矯正のためで、英語以外の言葉を母国語とする人や、州などの訛りを矯正する為ではありません。ビジネスの本場では、きちんとした音声ではっきり話すことが求められているからです。
 この技術を「アーティキュレーション(適度な音声で明確に話す)」と言います。これが出来るか出来ないかでその人の評価が決まります。声のトレーニングをするのは、ビジネスの世界だけではなく、軍隊での将校クラス、学者でも教授クラスなど、様々な分野のリーダー的立場の方々です。中でも、政治家は、演説する声にはっきりと人々にアピールする力がなければ、人気を勝ち取ることはできません。

 素晴らしい演説といえば、皆さんは誰を思い浮かべますか?
 私はケネディ元大統領を思い浮かべます。彼の演説は、日本はもちろん世界において、英語を学ぶ手本とされています。
 実は、ケネディ元大統領には、重い持病があり、声が弱く、はっきりした話し方が出来なかった為、ボストン音楽大学の発声学の大家であるマクロスキー教授を顧問とし、指導を受けていたそうです。歴史に残る、あの若々しく明瞭で力強い演説の裏に隠されいるエピソードです。

 自分の事を棚に上げて敢えて言わせて頂きますが、私は、聞いていて私自身が苦手な声であったり、苦手な話し方をする方とのコミュニケーションが極めて下手です。どんなに話の中身が良くても、苦手な声の方の話を聞くことはとても苦痛ですし、苦手な話し方をする方との会話は弾みません。

 声や話し方は相手を知る上での重要な要素です。映画「マイ・フェア・レディ」では、ヒギンス教授が、がさつでアヒルのような声で話す、下町娘のイライザの声と話し方を改造し、上品な声と話し方ができるレディに育て上げ、社交界にデビューさせました。
 映画の世界だけでなく、東洋でも中国の宋の時代の人相学書「神相全編(じんそうぜんぺん)」によれば、「金持ちの声は丹田(下腹)から出る。貧乏人は舌の端から声を出す」とあり、また、「上ずった声・詰まったような声の人は、いくら働いても金持ちになれず、社会的な地位も得られない。早死にすることさえある。」とまで指摘しています。また、漢方の問診でも、患者の話す様子から身体の不調を診断するとのこと。例えば、ラ行・タ行・ナ行の発音がはっきりしないのは、心臓の経絡(けいらく)が悪く、か細い声でサ行の歯切れが悪いのは、肺の経絡が悪いとされているそうです。
 こうした例からも解るように、人間の声や話し方には、その人の社会的な立場や健康状態まで、様々な情報が詰まっています。つまり、声や話し方には、「その人自身の強さ」が如実に現れるのです。
 ところが、日本人は、自分の声や話し方についてあまり関心がなく、ボイストレーニングは役者や歌手、政治家を目指す特別な人が学ぶものと思っています。
 そのせいか、日本人は世界的にみても声の出し方がとても悪いと言われています。そもそも私達は、声には出し方があるなんてことさえも知らないのです。
 声に関心をもつ外国の人々からみると、日本人の声は喉声や作り声ばかりでとても聞き苦しいそうです。
 そう言えば、小学校の国語の授業でも音読はありましたが、その元となる声の出し方は習わなかったですね。英語の授業でも確かにプロナンシエーション(発音)は習いましたが、「アーティキュレーション(適度な音声で明確に話す)」等は全く知ることはありませんでした。

 「いい声」とはどんな声なのでしょうか?「いい声というのは、ないんです。声にはいい声も悪い声もなくて、あるのは自分の声、その人の個性が自然と滲み出る声が魅力的な声です。だから本来の声をただ出せばいい・・・」とおっしゃたのは、演出家であると同時に呼吸・発声・発音トレーナーの津野武嗣先生です。
 因みに「ビジネスマナーインストラクター養成セミナー」においてのボイストレーニングは、自身の一番低い声から「♪ドレミファソラシド~♪ドシラソファミレド~♪」を腹式呼吸で繰り返し発声訓練し、その後、滑舌訓練として、「アイウエオ体操」で、「アエイウエオアオ・カケキクケコカコ~・~~・ワウェイウウェヲワヲ」を自身のミドルボイス(ソの音)でテンポ良く訓練していますね。津野先生にこのトレーニングの仕方についてアドバイスを頂こうと質問いたしましたところ、「とてもシンプルで理にかなった訓練です」とお墨付きを頂き安心いたしました。更に先生は、「声の達人になるには、①自分らしい自然な声で話す。②相手に届くように話す(例え小さな声でも)。③肉声で話す。それが日常的にできるようになるためには、ボイストレーニングを繰り返すことです。簡単なようでとても難しいことです」とおっしゃっていました。
 改めて、声の大切さを知りました。インストラクターの皆さん♪、声に磨きをかけましょう♪

 さて、日中は未だ未だ残暑が厳しいですが、空を見上げると秋の雲としてよく知られている“うろこ雲”が出ていました。夏の疲れが出る頃です。ご自愛ください。

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植田亜津子

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